※学園パラレルとなってます。
伊達主従は生徒会役員、慶次は…特に考えてなかったり(爆)
こっそり頭に置いといてやってくださいね。
【思っていたのは君の事】
夏休みに入って早十数日。
慶次は、政宗断ちをしていた。
メールが着ても。
電話が鳴っても。
全て。
それはもう物の見事に、全て断っていた。
幸い慶次は部活には入っていない。
顔を出すのは、是非にと友人に頼まれた助っ人の場合のみ。
成績下位の者の補習授業なんて忌々しいものは、能有る鷹は爪を隠すの如く、普段全くしない努力を注ぎ込み、テストも全てクリアした。
その出来に大口開けて呆気に取られた失礼な佐助には拳骨を。
驚きで学校中に響き渡る程叫んだ幸村には、4の字固めで制裁を与えることは忘れずに。(仕方のない事だとは、誰の口からも告げられない)
その為、生徒会や部活で毎日のように学校に顔を出す政宗とは、顔を合わせる機会が唯でさえ非常に少なかった。
本当は、その少ない機会に、出来るだけ多く会いたい。
でもその気持ちは、ぐっと、胸に仕舞い込んで。
慶次は、朝から晩まで、バイトに精を出していた。
近所でも評判の、人の良い女亭主の経営する定食屋。
ちょくちょく顔を出していたことと、持ち合わせの人懐っこさとで、慶次の頼みを快く了解してくれた。
「丁度、人手が足りなかったのよー!もう目の回る忙しさ!」
そしてその言葉通り、確かに店は繁盛していた。
朝からバイトに入って、1日中立ちっぱなしのまま帰るのは何時も夜を回った頃。
体力には自信のある慶次なので、上手いご飯も元気の素と相成って然程苦とも思ってはいなかった。
寧ろ、色んな人との会話や笑顔で、楽しんでいたといっても過言ではない。
しかし、勿論、寂しくないわけがない。
ただ目的のためにその寂しさは、押さえ込んだ。
そしてその苦労も、漸く今日、報われるのだ。
そんな慶次とは正反対な感情を持て余しているのが、生徒会室で1人頭を抱える生徒会長、伊達政宗だった。
「Goddamnit!アイツは一体何を考えてんだ!!」
思い切り机を叩き、落ちてしまう案件のプリントなどには目もくれずに。
逢えない理由など、とうの昔に分かっている。(小十郎に調べさせたので)
ただどうして、逢えない程にバイトを入れるのか。
その理由のみが分からずに、苛立ちが日々募っていく。
「そんなに気になるのなら、会いに行けば宜しいでしょう。貴方がその状態では、仕事になりません。」
きつく言い放ったのは、サポートを任される副会長である片倉小十郎。
朝から生徒会室に篭っているにも拘らず終わらせた仕事はほんの僅か、この状況が続く事はどうしても避けたかった。
「…簡単に言うがな、俺にだって男の意地がある」
しかしその提案は、あっという間に却下される。
政宗はこれまで幾度となくメールを送った。
電話もした。
家まで行った。
だが悉く、慶次に肩透かしを喰らわされ。
幾ら惚れているとはいえ、こちらにも意地やプライドというものがある。
それが人一倍強く高い政宗なので、バイト先に乗り込む、という最後の一歩だけは踏み出さずにいた。
(困ったものだ…)
溜め息が幸せを逃がすのなら、もう俺の一生分の幸せは逃げていってしまっただろうと、小十郎は自分の机へと戻りながら溜め息を吐き考えた。
そして、腰を下ろすと聞こえる生徒会室の扉を叩く音。
「こんにちは、政宗…いるかい?」
現れたのは、渦中の慶次。
私服姿で、開く扉から顔を覗かせる。
開いた扉から香る香水とはまた違う甘い匂いに、自然と浮き上がる腰を、政宗は無理矢理椅子へ括り付けた。
入るなと言われないことに安堵し、部屋の中へと慶次は足を踏み入れる。
「小十郎」
「はい」
政宗は顔を先程までまるで見ていなかった書類へと落とし、小十郎へと声を掛ける。
返事を一度するのみで、小十郎は席を立ち、慶次の横を通り過ぎて部屋を後にしていった。
2人のやり取りを慶次はわけも分からず見ているのみで。
「あの…政宗…?」
「何の用だ」
躊躇いがちに問い掛けても、返ってくるのは冷たく言い放たれる言葉のみ。
思わず怯みそうになる気持ちを、慶次は、踏み止まって堪える。
短く、息を吸い込んで。
「電話、ずっと出なくてごめん」
「三桁はいったな」
「メールも、ごめんなさい」
「送信メールアンタだけになりそうだぜ」
「家にも来てくれたんだよな」
「そろそろ不審者扱いされそうなほどにな」
「怒ってるって分かってるけど…理由が、あるんだ」
最後の言葉で、政宗の顔が上がる。
隻眼が、こちらを見ているのが分かると、それだけで幾分か心が楽になる。
「OK,聞こうか」
「これ…政宗にプレゼントしたくて」
「Present?」
一歩一歩、慶次は政宗の机へと歩み寄る。
政宗は椅子へと背を預け、腕を組み構える。
私服のジーンズのポケットから取り出したのは、綺麗にラッピングされた長細い箱。
差し出されたそれを手にとって、ゆっくりと包みを開けていくと、その中に。
「これは…」
「ハッピーバースデー、政宗」
シンプルなシルバーの腕時計が1本。
そして慶次の言葉に、政宗はゆっくりと顔を起こす。
ああ、そういえば、今日は。
「慶次、もしかして今までのバイトは…」
「ああ、バイトばれてたのかい?」
バツが悪そうに頭を掻く慶次に、政宗は漸く腰を浮かせる。
「一目見たときから、政宗に似合いそうだって思ってさ。でもちょっと俺の小遣いだけじゃ足りなくて…」
椅子から立ち上がり、机の前へと歩いて慶次の真横へと立ち。
「ホントはメールとか電話とかしたかったよ。でもさ、会えない位バイト詰め込まないとちょっと駄目で、下手にメールとかしちゃうと会いたくなって、バイトに身が入らなそうだったから」
「俺が、会いにいったのは…」
「あれはホントに家に居なかったんだって!夜遅くまで掛かる事もあったから、偶々」
肩を竦めながら笑う慶次は、いつもの笑顔。
政宗にとって、無視されていたことは確かに悔しかった。
どうしてだろうと、色々考えた。
だがそれは、全て自分の為故の慶次なりの考えで。
ただ、自分の為だけにしてくれたことであって。
それが、今こうして分かった。
「…それ、貰ってくれないくらい…怒ってるかい…?」
恐る恐る政宗の顔を覗き込む慶次を、誰が怒る事が出来るだろう。
「No…Very happy」
政宗は、慶次の身体を、抱き締める。
慶次も、政宗を抱き締める。
「政宗…ずっと、ずっと会いたかった…」
「Me too.お前の事ばかり、考えてた」
気持ちが、逸る。
重なり合う唇を深く味わって。
抱き締め合う身体の温もりが、互いにいつもよりも熱く感じるのは、間違いではないだろう。
そのまま生徒会のソファーへと倒れ込み、交じり合うその行為も、激しく、甘く。
漂う空気も密なもので、たまらなく、艶めいて。
やっぱり好きなんだと、2人思い合う。
行為の後も、服が肌蹴た姿を直すことなくソファーの上で絡み合った。
久し振りのこの時間が、何よりも幸せで。
「Present、もう1つ貰っちまったな」
「なに?」
「久し振りになって、ちょっとキツくなった極上のbody」
「ばっ…バッカじゃねェの!!」
飛んでくる拳は寸前のところで避けて。
誤魔化すように政宗は慶次の身体を抱き締める。
暫くは暴れていた腕も次第に大人しくなり、2人でこみ上げる笑いに肩を揺らした。
次の日からは、また何時も通りの2人。
毎日メールをして。
毎日電話もして。
慶次のバイトに政宗の生徒会の仕事もあるけれど(溜まり気味)、必ず3日に一度は会う日を作る。
以前と少し違うのは。
政宗の腕には綺麗な時計が1本、何時も、キラリと光っていること。
そして以前よりも、口付けの回数が増えたこと。