【愛し君、悦る我】








それは、真夜中のこと。
布団の中へと入り、もう幾時。



トン、と小さな音がする。



兵を飛び越えた音だろう。
暫くすれば、自分の部屋の襖が静かに開かれる。

腹筋へと、力を込める。





「グッ…!」





妙な声を上げたのは、俺。
身体の上へ、自分よりも体格の良い身体が自然の摂理へと身を任せて倒れてくるのだ。
幾ら鍛えているとはいえ、仕方のないことだろう(と、自分では思っている)。

「全く…うちの城の警備はどうなってんだろうな」

溜め息混じりに呟いて、身体の上で動かないままの慶次を見上げてみた。
顔をうつ伏せて、普段饒舌な口は、何も話さない。
時折、慶次にはこういう時期が来る。
過去を思い出しているのか何なのか、そんなことは如何でも良い。

「…政宗…」

「An?」

「大好き」

「I see」

「ホントだよ」

「分かってる」

「だからさ」

「何だ?」

「死なないで」

もう幾度繰り返したか分からない単調な会話。
最初は戸惑ったが、今はもう、慣れたもの。

「アンタを残して、俺が逝くわけねェ。分かってんだろう?」

何も言わずに、慶次が頷く。
そして、身体を確かめるように、布団の中へと潜り込んでくる。
夜風に晒されていた身体は冷たく、自分の身体が、僅かに震えた。
頭の飾りを取り去り、擦り寄ってくる慶次を抱き締める。

「暖かいな、政宗」

「ああ、そうだな」

向けられた顔は、薄明かりで僅かに見える程度ではるが、笑顔。
つられるように此方も顔は綻ぶ。

「先に死にはしねェが…Heavenなら…一緒にみようぜ?」

「…ばーか…」

「なァ、慶次」

「ん?」

抱き締める腕の力をより強いものとして。





「また、何時でもこい。こうして暖かい身体で、生きて、アンタの事、待ってるから」





それが俺の、してやれること。
俺が共に過ごせなかった時間に起きた出来事に苦しむ慶次に、してやれること。

身体に回る腕の強さが増すのが分かり、大きく頷いた慶次のくちびるへ、一つ、kiss。
そうして嬉しそうに笑う、愛しい恋人と共に過ごす夜。

この瞬間が、何よりも。

「Are you happy?」

「え、なに?」

「幸せかって、聞いたんだよ」

「ああ、えーっと……いえす!」

何時しか、来た頃の憂えた顔は、消えていた。









「俺、政宗に恋して、良かった!」