三つの情愛
1:いさよう指を固く結びあい(幸慶)
「慶次殿」
名を呼べば、動きが止まる。
呼吸が近くに聞こえる。
密着した掌は、ありありとその体温を伝えた。
「慶次殿」
もう一度名を呼ぶ。
この後のことを思ってか、ピクリと、指先が震えた。
そして静かに、瞼を閉じるのだ。
2:崩折れる躯受け止めあって(政慶)
いいの?、と、慶次は何度も問うた。
いいんだ、と、政宗は何度も答えた。
城は遥か遠くに映る。
伊達の名を捨てる程に惚れて、前田の名を捨てる程に惚れてくれた。
今ここには二人しか居ない。
「アンタが側に居てくれれば、俺は何も」
頷くその顔に、政宗は口付けを落とす。
何処までだっていける。
二人で、ならば。
3:ただ声もなく、分かちあうとき(親慶)
すり、と額を寄せ合った。
今だけは、眼帯を外して。
慶次が元親の頬を両手で包み、元親が慶次の腰を引き寄せる。
この距離感が好きだと、良くも悪くも人に甘えるのが好きな慶次が、以前言っていた。
触れ合う部分から伝わる情愛。
必要なのは、甘い恋熱。
言葉など、今は無用。