あし五題





1:跳ね上げた水飛沫(親慶)



「ちょっ…冷たいって!」

キラキラと光る水滴の向こう。
子供みたいに笑うその顔が余りに幼く、無邪気で、可愛くて。

「…何やってんの?」

「るせぃ…」

もう一度蹴り上げた足は空を蹴り。
俺が海に落ちて出来た飛沫が、一番跳ねていた。




















2:無防備なひざ裏(政慶)



政の書に目を通す政宗の後ろで、うつ伏せになる慶次。
着崩れた着流しが、少し捲れているのを持ち上げて。
指先で、他よりも白く窪んだ部分を、するりとなぞる。

「結構、感じる場所だろ?」

面白い程に飛び跳ねた脚を片手で掴み、不満げな表情など一笑し、そのまま大きく開かせた。




















3:こつんと小石蹴り(小十←慶)



足の先に当たった石を、何となくもう一度蹴ってみた。
追い掛けては、もう一度。
追い掛けては、もう一度。

いっそこの石が、あの人の頭に当たればいいのに。
(そうすれば、こちらを見る位はしてくれるのでしょう?)




















4:宙に踏み切るつま先(佐慶)



「じゃあ、またね慶ちゃん」

「うん、…また佐助の無事な姿…抱き締めさせて」

笑顔に見送られ、地面を蹴った。
けれども瞬間伸ばしたつま先は、側を離れたがらずにチクリ、チクリと痛んだ。

それは胸の痛みにも似て。




















5:風と駆け抜ける(慶次と松風)



俺には、足がもう四本ある。

景色が一瞬見えなくなる程の速さ。
嘶きが響き渡るのに、身体が震えた。
始めは姿勢を低くし、鬣を強く握り締める。
転げ落ちそうになるのを、足でしっかり胴を挟んで。
すぐに慣れるので、身を起こす。
そうして、感じるのだ。

これは、風だ。

極上の風の背に、乗っている。



この馬の、名は松風。



「さあ共に、駆け行こうか!」

再び上がる嘶きは、俺の身体を突き抜けて、天高く響き渡った事だろう。