和の趣き五題





1:行灯の揺らめき(小十慶)



視界の端で、ゆらゆら、ゆらゆら。

身体が揺れる度に、大きく息を吐く度に。
鬱陶しい程だと、耳元で囁けば。
「足りない所為だな」
などと、宣われた。
そしてまた、一層大きく揺らぐそれは、次第に見えなくなってしまった。

何時しか火は、消えていた。




















2:閉じられた襖(佐慶)



指先で枠を上からゆっくりとなぞっていく。
たった一枚が、こんなにも厚い。

中から聞こえる声はこんなにも鮮明なのに。




















3:畳のうえ(幸慶)



外で呼ぶ声も今は聞こえない振りをして。
手を握り合い、目を閉じてみる。
ひんやりとした背中の感触とは正反対の掌の熱、
言葉はないけれど、互いの存在は強く。
大事な、二人きりの空間。




















4:障子に落ちる影(就慶)



「慶次、か」
声を聞かずとも分かる。
「逢いに来たよ、元就」
合図のようなその姿を待ちわびる。

今日も月は明るい。
早くその姿を、映せ。




















5:縁側で膝枕(政慶)




何処かから遣ってきた野良猫を、舌を鳴らして呼んでみた。
人懐っこく、政宗の腹の上へと飛び乗って身体を丸めた。

「猫が、二匹だ」

自分の膝の上で仰向けになる顔を見下ろしながら、その光景に目を細めた。
見上げれば、青空。
ずっと、この時間が続けば良いと、声に出さずに呟いた。