三日後、元親の働きは目を見張るものがあったという。
武器の扱いを練習する事も無く望んだ戦で挙げた首は多数。
初陣を大勝利に収め、姫若子などと呼ぶものは以降一人として現れなかった。





そして、数年の月日を経る。
























「野郎どもッ!!準備はいいかァ!?」

空は晴天。
よく通る声が辺りに響き渡る。
銀色の髪を靡かせて、左目は大きな眼帯で覆われた長身の男が船首に一人。
手に持つそれは、常人が持つには大き過ぎる碇槍。

「ヨーホー!アニキ、準備は何時でも万全ですぜ!」

「よーしっ、出航だァッ!!」

勢い良く振り上げる片手と共に吹き始めるのは、船を進めるには十分過ぎるほどの、海風。
満足げに頷くその人こそ、長曾我部元親である。
悉く戦に勝利し、既にその実力は四国を統一するほどに成長をしていた。

その彼が、いつも胸に秘め置くことがある。


自分が戦を起こしていることを、アイツは怒るだろうか。
だがわかって欲しいと思う。
これは決して、私利私欲のための戦ではない。

悪戯に領土を広げているわけではないということを。


あの日から常に胸にある、戦が嫌いな風の精である慶次。
ただ身の回りに吹くこの風が、それに元親が赦されているということの証。
それだけが、元親を次の戦へと足を向かわせるのである。

そして戦で逢った兵士達は、次々に口にするのだ。



「あいつの周りに、爽やかな風が吹いているぞ!!」



寄り添う姿は誰にも見えないのだけれど、それでも、元親には感じるのである。
時折首にゆるりと絡み付く、慶次の腕。
風の音と共に聞こえる、慶次の囁きが。

『皆を、護って…元親』

空を見上げると、一陣の風が通り抜ける感覚に元親は、目を閉じた。






気紛れな風の精。
またアンタが何時でもやってくることが出来るように。

俺は、強くなる。

皆を護り、そして風を、慶次を護る為に、強くなる。
だから、俺に早くその姿を、もう一度。



初めて会ったその日から、風に浚われたこの恋心、アンタが持っているんだろう?














END