あれから幾日が経った事か。
雪は僅かに溶け始めている。
ほんの少し暖かくなり始めた奥州ではあるのだが、未だ景色は雪一色。
逸る心とは裏腹に、慶次の足取りはやはり掴ぬまま。
けれど政宗には確信がある。
慶次は生きている。
そして、自分を待っている。
手を伸ばしても届かないこの距離はあれども、未だ二人の心は繋がっている。
それは手に取るように分かるのだ。
空想でも思い上がりでもない。
だからこそ、一刻も早く。
「…慶次…」
強く、強く、掌を握り締めたとき、雪がどさりと、桜の木の枝から落ちる。
見えた枝の蕾の膨らみは、一層大きくなっていた。
「筆頭っ!風来坊の行方が…ッ!!!」
嗚呼。
これをどれほど、待ち焦がれたか!
場所を聞いたその直後、政宗の足は馬小屋へと走り出してた。
しかしそれよりも早く、小十郎が馬を引き、政宗の前へと現れる。
「Good!流石だぜ、小十郎」
「本当ならば、共に向かいたいのではありますが…」
「そんな野暮な真似はしない…そうだろう?安心しろ、すぐに戻る」
「お待ちしております。…政宗様、必ず…」
「分かってる」
言うが早く、鐙へと飛び乗って。
手綱を思い切り退いてやる。
「春を…桜を迎えに行ってくる」
駆け出した背から叫んだその声は、きっと届いた事だろう。
例え全て忘れていようとも。
必ず、この腕の中へと。
そして教えてやらなければ。
『I love you.』に返す言葉。
零れ落ちる記憶の欠片。
一欠片だけで良い、これだけは。
これだけは。
「……ま…さ、…むね……」
頬を零れ落ちる一滴の雫もまた、記憶の欠片。