あれから、慶次の姿を見た者はいない。
前田夫妻へと文を送れども、その返事は決して良いものではなく。
果ては南国まで馬を走らせたが、慶次に繋がる話は何一つ得られなかった。





そして、季節は冬。





慶次がいなくなっても、季節は移り変わる。
寒さの厳しくなる奥州を、更に白い雪が埋め尽くしていく。
慶次の足取りも、何ももかも、埋め尽くしていく。





















その日、政宗は夢を見た。













どちらを見ても、真っ白な世界。


奥州の雪景色にそっくりな、全てを白で覆い尽くされたその場所。


政宗の視線の先、膝を抱えて泣いているのは、小さな子供だった。












栗色の髪を括って、桜色の着物を着た小さな子供。
すすり泣く声に呼ばれるように、政宗は一歩ずつ近寄っていく。
真横に立ったとき、ヒクリと小さな肩が揺れ、恐る恐るこちらを見上げてきた。
随分泣きはらしたのか、目は真っ赤で今だ濡れ。
顔は涙でぐしょぐしょだった。

しかし隣へと屈んで視線を合わせても、その子供は、逃げなかった。





「どうして、お前は泣いてるんだ?」



『……だれも、いない…ひとりぼっちだから……』



「そりゃ、こんな所にいたらな」



『…だっておれ、ここからうごけないもん…』



「動けない?足があるのに、どこへでもいけるだろう」



『できない…あしのうごかしかたが、わからないから』



「足の、動かし方…?」












子供の足へと視線を下ろす。
ついさっきまでは確かにあった2本の足。
なのに、今は如何だろう。

そこにあるのは足ではなく、紛れもなく、一本の木の幹。

ゆっくりと、息を呑む。













『さびしいよ、ひとりぼっちなんて』


大きく子供が、しゃくりあげる。
再び零れ落ちる大粒の涙。

涙は何時しか、花弁へと変わり。

あるはずのない不思議な光景。
なのに胸がざわついて、酷く、酷く、締め付けられる。
早鐘を打つ胸を押さえる間も、政宗の身体は薄桃色に包まれて。
舞い散る花弁の美しさは、もう疑う余地もなく。

ああ、やっと。
お前は、俺の。

そして泣いていたその子供は、桜の木へと、姿を変えた。








『ねえ、おねがい。ひとりぼっちにしないで』





真っ白の世界の中、ゆっくりと風が吹く。





『さびしいのはいやだよ……まさむね』






















満開の桜の木の中に浮かび上がるのは、愛しい愛しい、慶次の、姿。

























「慶次…っ!!」


手を伸ばした瞬間世界は変わる。
一瞬で白に浮かび上がるのは、辺り一面満開の桜。
見たことも無い景色。
だけどどこか、懐かしい。

嬉しそうに微笑む姿にその手は届かなかったけれど。


























ゆっくりと夢から覚めた政宗の隻眼からは、久しく流した事のない、涙の雫が滴り落ちる。
身体を起こし、襖を開いて廊下へと出た。
辺りは先程見たような、真っ白の雪景色に閉ざされたままだけれど。

この日の本の国のどこかに、慶次はいる。

そして自分を待っている。

「全く…本当に世話のかかる…。見つけてほしいのに、俺の分からないところに行くんじゃねェよ」
顔を片手で覆い、天を仰ぐと自然と顔は綻んで。
「必ず、アンタの元へいく…だから、待ってろよ…my honey」
誰に告げるでもなく、一人小声で、けれど強く、呟いた。























君に恋い、君を乞う。
是くも動かぬ、この身なれど。