次に慶次が政宗の元へとやってきたのは、夕暮れだった。





若い衆が言うには、門の前で首を傾げていたらしい。
何故、ここにいるのかと。
それだけで、明らかに以前とは異なることは、すぐに、理解した。


「慶次」


呼んでも、時折返らない返事。
それが自分の名前だとはきっと分かっている。
分かっているのだろうが、やけに、意識が飛んでいるのだ。
廊下へと腰を下ろして、ぼんやりと、陽が落ちるのを見詰めて。
普段お喋りなはずの口は、閉じられたまま。

それでも。


「なんだい?」


こちらを振り返り浮かべる笑みは、やはり、慶次のもので。 

その笑顔だけが、政宗の唯一の救いだった。
どうがしたのかと問えば、別に?と返す。
明らかに疲労の色は見て取れていても、どこか虚ろな慶次に強く問いただす事など、出来ない。
側に寄って身体を抱き締めれば、慶次は背中へと腕を回した。
身体は、確かに温かい。



笑顔も、確かに温かい。







ただ、自分の名前を呼ぶことを、一瞬でも詰まってしまったときの慶次のあの表情を、政宗はきっと忘れないだろう。







「慶次、I love you」


「…こういう時って、なんて返すんだったかな……全然、思い出せないや」







その日、慶次の頭の飾りは、付いてはいなかった。










ポロリポロリと、落ちていく。

握り締める記憶の欠片は、離したくなど無いはずなのに。