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【少々困った話なのだけれど】
【逃がしてなんて、やりません】
【海と陸の異なる身体】
【指先にくるくると】
【新しい日課】
【少々困った話なのだけれど】
いつもするのは自分から。
少し高い位置から、女の子の額へ口付ける。
それが普通で、当たり前で。
でもそれが、いつからか。
「慶次、目ェ閉じろ」
「…閉じる前にしてんじゃん…」
自分より少し高い位置から額へ落ちる唇。
それが普通になり、当たり前になり。
とても、心地良く感じるようになった。
「あーあ、もう戻れない…」
「あァ?何がだァ?」
「元親の所為だ」
「は?」
さあこの責任、どう取って貰おうか。
【逃がしてなんて、やりません】
鬼は外
福は内
掌一杯、豆握り
鬼は外
福は内
バラリ、バラリと、撒いていく
それは、日本全国津々浦々
どこもかしこも、鬼払い
「はー、満足!」
それは、慶次も例外ではなく。
一頻り豆を撒いて、時折口にも放り込んだ。
持っていた枡を置き、部屋の入り口で、手招きしながら振り返る。
「元親、元親」
「あん?」
部屋の中で、その様子を見ながら杯を傾けていた元親は、のんびりと立ち上がり。
慶次の側へと歩いていくと。
「お、わ!」
不意に、身体を抱き締められた。
「なんだなんだ、積極的だなァ?」
徐に背中へ腕を回し、慶次の横顔を眺めて背を叩けば。
此方見遣る顔は、笑顔で。
耳元で囁く言葉には、思わず噴き出した。
「この鬼は、俺が見張っとくから、追い出さない」
戯れに頬に落ちる唇に、元親の表情は緩んで。
得意げに笑う慶次の唇も視界も、そのまま口付けで、塞いでやった。
「よーく見張っとけよ、目を、逸らさずに」
鬼は内
俺の鬼
外になんて、出してやらない!
【 海と陸の異なる身体】
「元親」
「あァん?」
「手、見せて」
「手?」
「うん」
首を傾げながらも、慶次へ伸ばされる元親の手。
慶次よりも少しだけ大きく、鍛えられた無骨な手。
「どうした」
「なんでもない」
ただ見たかっただけ。
それだけなのだ。
ゆっくりと、その手を放す。
慶次は自分の手を、元親へと伸ばしてみる。
「寂しいのか?」
伸ばした手は、掴まれた。
いっそここから、繋がってしまえばいいと、思った。
(いつかは断たれる、互いの命なので)
【指先にくるくると】
海風に揺れる慶次の髪を、指に絡めた。
なんだい、と問われると、答えは出ない。
無意識に、指が伸びる。
自然と触れたくなる。
それが、不思議なのだが。
これが、恋というものなのだ。
【新しい日課】
海を眺める事が多くなった。
理由なんて、とうの昔に分かっている。
「元親ー!遊びに来たぞー!!」
「相変わらず、よくもまァそんな小舟でくるもんだ…上がって来い、釣ったばかりの魚がある!」
船着場に、小さな舟が泊められる。
下の奴らと話す声が、次第に近くなってくる。
そして、俺の元へとやってくるのは長い髪の想い人。
「唐突に来ちまって、ごめんな?」
「いや、いいさ。それでこそ風来坊ってもんだろ」
「へへっ…元親、逢いたかった」
「ああ、俺も逢いたかった」
ぎゅう、と抱き締める身体。
本当は、焦がれて、焦がれて。
このまま閉じ込めておきたいと思う。
だけどそれをしないのは、慶次の性格を知っているからこそ。
無駄だと、分かっているからこそ。
ずっと共にありたいと願う気持ちを、今は、仕舞い込むのだ。
あくまでも、今は。
だから俺は。
今日も、海を眺めている。
愛しいあの小舟を、待ち侘びて。