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【愛しい愛しい独占欲】
【此の花、彼の人】




















































【愛しい愛しい独占欲】





「慶次」

「…元就…」

長い髪が揺れる。
後ろに縛る慶次の手が、じくりと、痛んだ。

「ど…して…?」

「そなたは、我のもの故」

感情が篭っていない声がする。
足も、固く縛られて。

「俺、アンタの事好きって、いったのに…信じてくれないのかい…?」

涙が、零れ落ちた。
頬を伝い、白粉が取れて、筋を残す。
紅を引かれた唇が、震えた。

「我も、好いておる…慶次」

「じゃあどうして!」

「そなたは…いつも好きに何処かへ行ってしまう。我を、残して」

指先が、慶次の頬へと触れた。
小さく肩が震える。

「ならば、閉じ込めてしまえば良いと…そう思うてな」

口許に、浮かぶ笑み。
けれどそれは温かくも、冷たく。
閉じた慶次の瞳から、もう一度涙が、落ちた。

「嗚呼…愛しい、愛しい」

綺麗に着飾る姿は、まるで。



「我の、人形」



何処で、間違ったのだろう。




















































【此の花、彼の人】





幸村の机の上には、椿が一枝飾ってある。

それは、少し前に慶次が何処からか手折ってきたもの。
当の本人は、既に出立し今は何処の空の下。
時折幸村は、筆を走らせる手を止めその椿を見詰める。

赤い花が、瞬きをしても目に強く残る。

花弁に指先をそっと、伸ばす。


「あ」


触れる直前に、一花、机へと落ちた。
花弁を落とすでもなく、枯れるでもなく、ぽとりと。

机の上に、赤い塊。

筆を置き、掌の上へとその花を乗せる。
今にも滴り落ちそうな、赤。
形は其の侭に、ふつり、途切れた生。
ふと過る短絡的で倒錯的な思考に、幸村は、思わず笑ってしまった。


(あの人も、美しいまま、ぽとりと、この掌の上へ)