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【青い恋の独り善がり】(就慶)
【君の好きなところ】(就慶)
【冷たい心に咲いた花】(佐慶)
【自分に言い聞かせる】(佐♀慶←幸)
【忍んで候】(佐→慶)
【青い恋の独り善がり】
さあ。
早く堕ちて参れ。
我の手の中へ。
策は幾らも張り巡らせてある。
そなたは既に我の作る盤上の駒よ。
戦をするより手間の掛かることではあるのだが。
それもまた一興、面白い。
「アンタ、意外に良い人だね」
「そのような言葉…我に言うのはそなたが初めてだ」
初めは些細な繋がりから。
じわりじわりと、確実に策は成る。
その笑う顔、今は皆に見せるが良い。
もうすぐ。
もうすぐ。
我だけのものとなることは必至。
「前田の…今日は我の城へ来るが良い」
「ホントかい?悪いねぇ!実は路銀が切れちゃってさ」
「ふっ…そういう無計画となころも、実に興味深い者よ」
「酷いなー…ま、元就みたいに難しいことは、確かに考えらんないけど」
全ては仕組まれたことだなど、そなたは気付くまい。
気を許していくことが手に取るように分かる事のなんという至福。
なんという快感。
この様に人を欲するのは、今までに無きこと。
故に、確実に我が手にしてみせよう。
のう、前田慶次。
崩れしな垂れ堕ちるであろうその肢体。
我が必ず受け止めようぞ。
誰にも見せぬ。
誰にも触れさせぬ。
我の為だけに、咲けば良い。
「慶次…我を、どう思うておる」
「好きだよ?元就」
さあ。
早く、堕ちて参れ。
我はもう、待ちきれぬ!
【君の好きなところ】
心の奥まで突き刺さるような。
そんなアンタの視線が、そしてそれが俺にだけ和らぐことが。
好きだよ、元就。
我にそんなことを言う輩は、そなたしかおらぬ。
そうかい?
じゃあ、俺の特権かな。
他の人が言わない様に見張っといて?
…なんてな。
見張るも何も…居らぬと言うておろう。
そんなのわかんないだろ?
だって。
この俺が言う位なんだから。
理由になっておらぬわ。
まあ…片隅には留めておいてやろう。
ありがと、元就。
…のう、慶次。
ん?
我しか言わぬ、そなたの好いた所……探しても、良いか。
他の誰も知らない。
我のみが知る、
好いた、所を。
【冷たい心に咲いた花】
それは俺がまだ、旦那に仕える前のこと。
修行の途中に、喧嘩をしている輩がいた。
通り道で迷惑な、などと思いながら。
木々の陰に隠れ見た光景。
まるで、一つの舞台のようだった。
超刀を振るうのは、年端もいかない少年。
右へ左へ、踊るような戦い方。
動きの一つ一つが豪快且つしなやか。
長い髪が動きに合わせて揺れる度に。
ひらりひらりと、舞い散る花弁。
辺りに花樹は、まして桜などあるわけがない。
顔に一枚落ちるそれは、不思議と直ぐに消えていく。
「追い剥ぎなんて、格好悪いぜ?そんなんじゃあんたら、モテないよ」
見惚れている内に、片が付いていたらしい。
地面へ這い蹲る野党から血は出ていない。
あの超刀で討ったにも関わらず、全て当て身で終わらせたというのか。
「お兄さん、見物料…幾らがいい?」
掛けられた声に、息を呑む。
気付かれていた。
気配を消す術は習得した筈。
少なからず動揺する。
視線が、重なる。
「…残念、俺様今文無しよ」
笑う顔が、とても、きれいだと思った。
逃げようと思えば逃げ切れたのに留まった。
思えばこれが、初恋だったのかもしれない。
【自分に言い聞かせる】
佐助が、恋をした。
相手は、前田慶殿。
恋などと。
破廉恥な感情だと、そう思った。
だがその表情は、とても穏やかで。
その恋が、とても良いものだと知った。
なのに、俺の表情が明るくなることはない。
人らしい感情を持ち始める佐助と、その隣で微笑む慶殿を見る俺の心に渦巻くこの感情もまた。
人らしいものなのだろうと、そう思うことで。
何故か少し、心が凪いだ。
【忍んで候】
たとえば目を覚ましたときの寝惚けた顔だとか。
たとえばご飯を食べてるときの至福の顔だとか。
たとえば子供に向けるときの柔らかな笑い顔だとか。
全ての顔が見たいんだ。
だからね、だから。
「……だからって、用を足してるときに目の前に現れる必要は、ないだろ…」
「だってそんな顔も、見たいでしょ?あ、勿論下もさりげなく」
「知るか!見るな!」
ああそんな、怒った顔も、大好きで。
色んな顔を見る為に、今日も俺は。
忍んで候。