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【偽笑と真話】
【我が一輪】
【君を呼ぶ】
【痛甘論】
【天への願い】(7/7)





























































【偽笑と真話】





それは政だったり

それは家臣だったり

それは好敵手だったり

なあ

俺は一体、何番目?



笑って「大丈夫」なんて、もう何回言っただろう



「風来坊は寂しいと、風になって消えちまうんだぞ」

アンタの側から

女々しいこの呟きと、一緒に



























































【我が一輪】





雪が溶け、春になり、夏を迎える頃になると、多種多様な花が咲く。

白、桃色、赤、黄色。
そのどれもが美しく、また、儚く、それでいて、強い。

「政宗、お茶立てるけど…一服するかい?」

「Thank you,慶次…頂く」

庭から振り返れば、そこに咲く華はかくも見事な一輪の。
歩み寄れば普段からは考えられないほどの手際のよさに目を奪われる。
煎れる茶もまた、絶品で。

「庭が、くすんじまうな」

「何言ってんだよ、霧は出ないぞ」

「そうじゃねェって…。…なあ慶次、舞が見てェ」

「どうしたんだい?急に。…いいぜ、任せときな」

笑いながら、立ち上がり。
ぱちんと取り出す一枚の扇子。
ヒラリ舞えば、辺りに華の香。

この華もまた、強く、美しく。
どこか、儚い。

しかし庭の花とは異なるうこの華の。
その儚さなどこの俺が。
忘れ去るほど、見事に咲き誇らせようじゃないか。

「誰にも、渡さねェ」

この、手で。





















































【君を呼ぶ】





鳥が一羽、見上げた空を飛んでいった。



雲が揺れる。
空が霞む。

こうして一人地に倒れていても、やはり空は美しいものだと思った。
だけどこの空をもう、二度と。
彼と共に見上げる事のない悲しさは、言い様もなかった。

「…寂しい、な…」

コホンと、咳き込んだ口の端から伝わる温もりも、次第に消え行く。
一人、儚く冷たくなる。

見付けてくれるだろうか。
このままなのだろうか。
様々な思考が過ぎってはいくが。
でもとりあえずは、信じていようと思う。

閉じた瞼の裏に映る、最後に恋した隻眼の。
「愛しい」と告げてくれた、彼の想いを。



鳥がまた一羽、空を飛んでいった。

小さく名前を呟いた。

遠くから響いた鳴き声が、まるで彼の返事のようだった。

























































【痛甘論】





口の中、前歯の付け根にプツリと出来た白い点。
何かを食べても、何かを飲んでも、ジクジクと滲みて、耐え難い痛みが走る。

「最悪だよ、もー…」

大好きな物が並ぶ伊達家の夕餉、しかし手を伸ばせばまた、あの痛みが蘇ることが嫌で、嫌で。
箸へ、手が伸ばせない。

そんな様子を眺めていたのは城の主。
向かい合う席から身体をずらし、慶次の側へと身を寄せる。

「慶次、口開けろ」

「、?…なんで?」

「いいから」

言われるがままに、慶次は政宗へと口を開いてみせる。
そのまま、と声が聞こえたときには、既に唇は塞がれて。
開いていた唇からするり、と入り込むのは政宗の舌。
そして。


「イタ…ッ!」


チクリと、小さな痛みが歯の根に刺さる感触。
肩を押し返し、慶次は自分の口許を押さえる。
目の前には、愉しげに目を細める独眼竜が一人。

「何すんだよ!痛いんだからな!」

「これで…滲みる度、思い出すだろう?」

「何が!」



「俺との、kiss」



一気に、熱くなる顔は我慢できるはずも無い。
そして。
ぱくり、と何かを食べる度、チクリと滲みるその点から。

思い出される触れ合う記憶。

その痛みさえも、甘い。
































































【天への願い】





梅雨の合間、少しばかり雲は残っているものの奥州の夜空は綺麗に晴れていた。
政宗の隣には、酒が入った為に気分の高揚している慶次。
右手には杯が、左手には小さく手折った笹が1本揺れている。
慶次の持ってきた千代紙で、綺麗に飾り付けられて。

「あとは願い事だけだな」

空を見上げていた慶次が、ふと視線を下ろす。
二人の間には、硯と筆と、短冊が二枚。
一緒に書こうと決めたのは夕暮れ。
しかし政宗が何を書こうかと悩んでいるうちに、日が沈んでしまったのだ。
書きたいことは、山ほどにもある。
だが。

「願うだけで叶うなら、幾らでも書いてやるんだが…」

自分の手で叶えなければ、意味などないことばかりだから。
分かっているからこそ、慶次も急かす事はしない。
のんびりと、酒を片手に時間を過ごす。

その様子を見る政宗は、漸く、筆を取った。

「お、決まったのかい?」
「ああ…アンタも書けよ」

笑顔で頷く慶次も筆を取り、二人でサラサラと文字を書く。
出来上がって見せ合う文章に、思わず噴き出してしまった。
短冊を笹に飾り、星空へと慶次が掲げて。

「叶うと良いな!」
「慶次さえ居れば、それはすぐに叶うぜ?」
「うん、俺も…政宗さえ居れば」
「アンタの放浪癖が無くなれば、もっといいんだがな」
「…さーて、なんのことやら」

目を細め合い、交わすのは深い口付け。

サラサラと、笹の葉と共に揺れる短冊が、頬に触れることも気にならない程に。



『慶次が』
『政宗が』

『幸せでありますように』



天へ祈ってしまう程、強く、強く、願うのは、愛しい愛しい君の幸。