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【甘く柔らかく和やかに】
【だから寂しくないんだよ】
【男ですから】
【これもひとつのかたち】(読み手様の想像力頼みの、お話です:土下座)
【それは広げられた掌の上】
【甘く柔らかく和やかに】
額を合わせる。
眼前には互いの瞳があって。
鼻先が触れ合う程の距離を愉しむ。
身体を重ねるのも良いだろう。
けれどただ、側に寄り添うだけのこの空間。
なんでもないこの時を、幸せと思えることの、なんと幸せなことか。
伝えたい言葉は沢山。
だけど今は、口を噤もう。
今、この愛情は。
何も互に喋らずとも。
柔らかな感触と共に、この身に伝わり有るのだから。
【だから寂しくないんだよ】
1人、歩く夜道。
町の明かりからはやや外れたその場所で。
見上げた空には、綺麗な星が輝いていた。
「こりゃ綺麗だねェ」
呟いてみても、返事をするのは隣にいる小さな相棒のみ。
その小さな頭を軽く撫でて。
「この星を、政宗も見てるのかな」
自然と、顔は綻ぶ。
輝く星の下にいるのは、自分だけじゃないとわかっている。
そして、その星を映す空は1つ。
同じ星空の下にいるのならば。
「目を閉じれば、隣にいるのと同じ…なんてことにならないかな」
そして。
「あの星の輝きに言葉を乗せて、届ける事が出来ればいいのに」
なあ?と、夢吉に問い掛けて、返って来るのは首を傾げる動作のみ。
自分の中の叙情感に、何となく、笑ってしまった。
【男ですから】
慶次だって、男だ。
それは深い意味ではなく純粋な羨望や尊敬の念等を込めて。
男に惚れるという事も確かにある。
それでもやはり、どちらかといえば、女に弱い。
どちらかというか、滅法と言っても過言ではないかもしれない。
だから。
「政宗、政宗痛い!痛いってば!!」
「Shut up!アンタは俺だけ見てりゃいいんだよ!」
悲しい男の性故に、恋人に引っ張られる耳が千切れるのは、何時の日か。
「とっ…通りすがりに女の子見るくらい、いーだろーーっ!!!」
響く泣き声も、消えるのは閨の中。
【これもひとつのかたち】
繋いだ手を振り払った。
驚きに、目の前で顔が引き攣るのが分かる。
涙が頬を伝う。
けれどそれを堪える事はしない。
「アンタの事、嫌いになっちゃった」
俺は今、上手く笑えているのか。
唇が自然と震えて。
呼吸が出来ずに、咽が鳴る。
「もう、逢わない」
一言言って背を向けた。
進む震える足を無理矢理進める。
これで、最後。
「大嫌いだよ、政宗」
理由は、言わない。
辛く、苦しく、悲しい嘘を、吐いた。
【それは広げられた掌の上】
雨に打たれた花びらが、はらり、と一枚宙を舞う。
ゆっくりと、隣の手が開く。
まるで行く場所が決まっているかのように。
落ちて。
堕ちて。
掌の上。
握らずとも、動けなくなる薄桃色の花びらは、まるで自分のようだと。
呟こうとする唇は、すぐに、塞がれる。
見透かしたように微笑まれ。
気侭に舞う春の風、竜に囚われたのはのはとうの昔。
満開だった桜は、既に緑の葉を見せた。
見上げれば、花びらがひらりと、また、一枚。