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【掌の温度】
【伊達軍の災難】
【この熱もまたうたかた】
【Cat's Day】
【不可能な勝利】





































































【掌の温度】





慶次の手は温かい。
逆に。
政宗の手は冷たい。

「氷みたいだよ、政宗の手」

「仕方ねェだろ、好きで冷たいわけじゃねェ」

だから自然と、手を繋ぐ
慶次はその手を温めてやりたくて。
政宗はその熱が愛しくて。



じっくりと、ゆっくりと、政宗の手が温まっていく。



互いの掌が、同じ温度になっても。
手は暫し、握られたまま。


































































【伊達軍の災難】





駆け上がってくる。
それなりに場数を踏んでいる筈の兵をなぎ倒し、常人が振り回すにはあまりにも巨大過ぎる超刀を振り翳し。
駆け上がってくる。

途中呆れ返る小十郎はそのまま素通りし、門をドカンと蹴り開けて。

巨大な竜の口から噴き出す炎など、既に勝手知ったるものの為、あってないようなもの。
嬉々として此方へ向かってくる騎馬兵を軽々と避け、馬は無傷で、兵は叩き落す。
巨大な岩を投げ応戦してくる大男には、岩を避けて背中へと一撃を。

そうして頂上へと、駆け上がってくる。



「政宗、遊びに来たぜっ!!」

「Hey,慶次!!Are you ready?」

「いえすっ!!」

「OK!Ready…」





「Go!!」「ごーッ!!」





ガチン、とぶつかり合う獲物、飛び散る火花。
身体を駆け抜けていくのは極上の快感。
遊びとはいえ、半ば本気で命を賭して振り合うことのできる刀と超刀のやり取りに。
二人して、笑みを浮かべて酔い痴れた。

溜まる欲は動いて発散。

肌とは違う、これも一つの甘い房事。

門の向こうから向けられる、痣や瘤の出来た兵からの恨みがましい視線には、気付く事はない、まま。



「いい加減、戯れるのは、部屋の中だけにしときなさい…」

お膳立てから始まって。
酷い目に遭い痣だらけ。
更には二人の閨事を、こうも堂々と見せ付けられる、此方の身にもなってくれ!































































【この熱もまたうたかた】





湯船に浸かると、全身が段々と温かくなってくる。
お日様の下にいても、身体はゆっくりと温まる。
表面から、奥まで、じんわりと。
睡魔すら訪れる、穏やかな熱。

そんな熱など、今はいらないのだ。

「慶次、慶次…」

「んっ…ァ…」

「I love you…慶次」

「…まさ、むねッ…」

抱き締められた身体が、一気に燃え上がる。
指先から、芯まで、全てが熱くなる。
政宗の触れたところから湧き上がる、凄まじいまでの快楽の熱。

欲しい。
もっと。
身体を熱く、熱く、熱くして。
触れ合えないときの冷え切ったこの身体など、無かったかのように。

身体に覚えさせておきたいから。

明日の保証など無い、この熱を。





























【Cat's Day】





「政宗が、猫になった」





「…なんだ、その唐突な入りは」

「だっ…だって!!ホントに猫になっちゃったくせに!」

朝目が覚めたら、不思議な光景が俺の隣で眠っていた。
隣にいた男の耳は大きな猫の耳に変わり黒い毛に包まれて、自分の身体には、いつの間にか同じく黒い尾が撒きついて。
初めは、ああ夢なのだと、そう思った。
だからもう一度、目を閉じてみたりもしたのだ。

けれど。

「まー…なっちまったもんは仕方ねェか…」

再度目を開けてみても、やはりそこには猫耳がピクリと揺れ。
慌てて起こしてみても、当の本人は最初驚きこそすれ、特に気にする素振りもない。
布団の上で横になったまま、黒い尾をパタパタと揺らしているだけ。
それを、あるがままに受け止めている。

「慶次,Am I lovely?」

「何言ってるのか分かんない!それより、そのまんま皆の前に出たら、大騒ぎだぞ!…ったくもー…」

自分の耳や尾を楽しそうに弄っている姿を見ていると、何で自分の方がこんなにも焦っているのか、仕舞いにはバカらしくなってきた。
今日この後どうするつもりなのか、とか、元に戻る方法はあるのか、とか。
この様子だと聞いてもきっと分かりっこない。
なんかもう叫ぶ事に疲れて、俺もその場に、仰向けになる。

政宗が、俺の上に覆い被さった。

「そうだな、こういうのは俺よりもアンタの方が似合うし」

「そういう意味じゃないっての…」

身体に尾が甘ったるく絡み付く。
柔らかな毛がくすぐったい。
楽しげに覗き込んでくる政宗の目は、何処かいつもよりも獣じみて。

重ねた身体は、いつもよりも熱かった。








そして結局、政宗が猫だったのはこの日一日だけ。

「It's boring.」

小声で呟くその言葉の意味は相変わらず分からないけど、不穏なものなのだろうという事だけは、その表情で見て取れた。

「大体政宗が猫だと、俺の身が持ちそうも無い」

「Why?」

「…だって」



器用に動く、尾にまで熱を攻め立てられて。
ざらつく舌の感触に、妙に身体が揺れて震えて。
乱れ掠れた己の嬌声が、やけに甲高かったから!















































































































【不可能な勝利】





ゴロリと、畳の上に寝転がる。
政宗の仕事が余りに溜まっているからと、遊びに来たのは良いものの小十郎に押し込まれたのは、客間だった。

折角来たのに。

口を尖らせてみても、結局は如何にもならないことくらい、慶次にも分かっている。
だから、甘んじて横になる。
暇だ暇だと、呟くのは忘れずに。


「なら、私と遊びますか?」

「あれ?」


にこやかな笑顔を湛えて客間へとやってきたのは、政宗の側近の1人である鬼庭綱元。
片手の盆の上には、茶が2つ。
横になる身体を起こし、慶次は綱元と向き合った。

「珍しいね、綱元さんがお茶を持って来てくれるなんて」

「今日は小十郎も忙しいようですからね。ご不満ですか?」

「いや、そんなことないって!」

必死に頭を振る慶次に、綱元が浮かべる笑みは自然と深くなる。
その場に座る綱元に習い、慶次も胡坐を組む。
目の前に置かれた茶には軽く頭を下げて。
暫し二人で、談笑した。





















「なんか、綱元さんとこんな風に話たの初めてだけどさ、すげ楽しい!」

一時の間、身振り手振りを交えの二人の会話は続いた。
不思議と会話は途切れることなく、懇々と湧き出てくるのである。
次第に咽も枯れ始めた慶次は、飲み忘れていた茶を一息に飲み干す。
浮かべるのは、満面の笑み。
綱元も、その顔に満足気に頷いて。





茶を除けて、慶次との距離を詰める。





上機嫌の慶次は、それを気にしない。





「慶次殿、暇は潰れましたか?」

浮かべる笑みは、至極優しく。
不意に、胸がトクンと高鳴る。
素直に頭を縦に振る。

「そうですか…、…おや慶次殿、髪にごみが」

「ホント?何処だい?」

「ここですよ」

疑問符を浮かべる慶次の頬へ伸びる手。
幾度も瞬きを繰り返し見下ろす手の動きはしなやかで。
振り払う間もなく顔を包み込まれる。

「え、と、あの…ゴミ…」

「今取りますから、待って下さいね」

優しく掛けられる声に、何故か素直にもう一度頷いて。
短く、息を吐き出した。

「慶次殿」

「つ」















「綱元殿ーーーッッ!!!!」















「こっ…小十郎さんッ!!?」

「おや、もう仕事は終わったのか?」

鋭い音と共に、跳ね返るほど勢い良く開いた襖の向こうには、それこそ龍を思わせる表情で。
息を切らし走ってきたらしい、もう1人の政宗の側近、片倉小十郎。
綱元から掛けられた言葉に、こめかみがヒクつく。

「お蔭様で…何故か増えていた書類まで目を通させて頂いた」

「それは不思議だ…沸いて出たのかもしれないな」

わざとらしく肩を竦め、綱元は、頬の手をそっと退く。
無遠慮に部屋の中へと入ってくると、楽しそうな綱元と呆気に取られた慶次の間へと割って入って。

「嫌な予感が当たったか…慶次、何もされてねェか?」

「なんだ、人聞きの悪い」

「貴方には、聞いていない」

下の者が見ると確実に硬直しているであろう鋭い視線で、小十郎は綱元を一瞥する。
下の者が、であって、綱元にはなんの効果も無い事くらい分かってはいるけれども。

「う、うん、ゴミ、取ってもらってただけだよ」

「…そうか…」

慶次の顔や首を見て、何も無い事を確認すると漸くそこで安殿し。
未だ思考の追いつかない慶次の手を引き無理矢理立ち上がらせると、そのまま、客間を後にする。
笑いを隠さない綱元には、諦めからか深い溜め息を吐き。

「綱元さんって…格好良いね、小十郎さん」

僅か頬を赤らめている慶次には、更に溜め息が洩れた。
せめて、政宗の前ではその台詞を言わないでくれと、念を押して。
首を傾げる慶次は、なんとか納得させた。
何時でも苦労するのは、小十郎である。



「そういえば、ゴミ…取ってもらってないなァ…」

「じゃあ付いてなかったんだろう」

「なんだ、綱元さん見間違いか」

「…ああ、そうだろうな。…それでいい、それで…」



思いつく言葉は、そのまま咽の奥へ飲み込んだ。
そして。
政宗の部屋に二人で向かうと、そこには何故か。



「遅いぞ小十郎。慶次殿…何もされていませんか?」

「An?慌てて出て行ったと思ったら小十郎…慶次に手ェ出したのか…?」

「綱元さんすげーっ!!空でも飛んできたの!?」

「…貴方は本当に、人なのか…」



一直線、他に通路など無いはずなのに。
先に着座している綱元を見て、小十郎は脱力した。



嗚呼。

この人には、勝てない。