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【光芒を上るのは天使だけじゃない】
【たった一人の為だけに】
【全てを欲するが故の苦しみは我が胸にのみ留めておこう】
【ある一日のお話】
【固い顔の弱点】(政&慶&小)
【光芒を上るのは天使だけじゃない】
空が晴れたら、会いに行こう。
君に会いに行こう。
今はまだ早い。
しとしとと、落ちていく雨。
一面の雲。
「雨が上がれば、気持ちも晴れるさ」
妙な自信だけが、この胸にはあって。
茶店の軒先で雨宿りしながら、足をぶらつかせる。
片手にはいい香りの茶の入った湯呑み。
思わず飛び出した相手の部屋。
呼び止められた声を振り切って、走ってきたはいいものの。
雨に降られて暫し足止め。
そこでじっくり考えて。
結局やっぱり、帰りたいのはあの人の隣。
「あーあ、早く止まないかねェ」
ぼんやり見上げた雨の空。
見えたのは一筋の雲の切れ間。
キラリ光る雨露に、思わず顔が綻べば。
「あ…」
陣笠を差し、歩いてくるのは一国の主。
まだ降る雨に、濡れることもかまわずに飛び出して。
「ごめんな」
差し込む日の光につられてたった一言いうことは、こんなにも簡単。
雨は漸く、上がろうとしている。
何も言わずに抱き締められて、心まで、晴れ渡る午後。
【たった一人の為だけに】
この身は何時朽ちるか分からない。
戦に身を投じている限り、死とは常に隣り合わせ。
そんなこと、百も承知で己はここにいる。
そんな中。
ただ1人常に心に思うのは彼の人のこと。
一陣の風が頬を擽る度、ふと、彼が近くに居ると錯覚する。
優しい声が聞こえると、違うと分かってはいるはずなのに、錯覚する。
早く終わらせて、帰らなければ。
一刻も早く帰らなければ。
風が待つ、愛し君の待つ、あの場所へ。
戦が嫌いな彼の人が、堪えて己を待っている、あの場所へ。
ああ。
この身生きるは、君が為。
ただ只管に、君が為。
この身死するは、君が為。
ただ只管に、君が為。
故に。
この身全ては、君が為。
ただ只管に、君が為。
「慶次」
君が、為。
【全てを欲するが故の苦しみは我が胸にのみ留めておこう】
『真田幸村』
この名前が、政宗にとって特別な位置にあると、慶次は知っている。
それは誰も。
小十郎さえも。
立ち入る事の出来ない特別な位置。
例えて言うなら、別格、というものが相応しい。
「…An?どうした、やけに無口だな」
「んーん、別に」
「そうか?」
政の書簡へ目を通す政宗の背へ背を預け、目を細めながら振り返る。
向けられるのは至極暖かな眼差しで。
穏やかな時間が流れるこの空間、頭に乗せられた手の温もりをとても嬉しく思う。
思うのだけれども。
それでも。
『やっぱりアンタ最高だッ!!真田幸村ァアッ!!!』
血の匂いのする戦場で、咆哮と共にたった一人にのみ向けられるあの眼が。
熱く強烈で鮮烈な、胸を鷲掴みにされるあの眼が。
とても、とても。
「欲しい」
「…What?」
「ううん、なんでもない…」
頭を横に振りながら顔を前へと向けて、身体を丸めて蹲る。
夜の闇は色々と、いらぬ事をも考えるんだよと、慶次は俯いたまま呟いた。
首を傾げながら政宗は、また手元の書簡へと視線を落として。
敢えて何も、聞こうとしなかった。
訪れた沈黙に、互いの耳の奥がキーンと、鳴った。
叶わない願いと知りながら欲するは、唯一彼のみに向けられる、死をも纏う戦に歓喜狂乱する眼。
熱く雄々しい愛しい竜の、魂をも喰らわんとする眼。
決して向けられる事はないと知っているのだから。
ただ今こうして閉じた瞼に鮮明に映るこの眼だけは、誰にも渡さず、我がものに。
【ある一日のお話】
そりゃ俺が悪いと思うぜ?
待ってるといった時間に行けなかったんだからな。
だけど、何も頬を引っ叩く事はねェだろ。
奥州筆頭の横っ面張る奴なんか、お前しかいねェぞ。
「hey,慶次…いい加減機嫌直せよ」
「嫌だ」
さっきからこれの一点張り。
引きずって連れてきた部屋の隅に座り込んだまま、こっち向きもしねェもんだから。
溜め息吐きつつ、後ろから覆い被さる。
振り払われねェところをみると、少しは治まったみてェだな…。
「慶次…何をそんなに怒ってるんだ?」
「…政宗が来ないからだろ…」
「だから、それは謝ったじゃねーか」
「だって外で会うなんか滅多にないから…ッ!!」
凄く楽しみにしてたのに、と。
そういって、慶次はまた頭を俯けた。
Ahー……。
確かに、俺は一国の当主。
そうそう城を抜け出せるもんじゃない。
今日は小十郎の目を盗み、成実を上手く手懐けて、城を抜け出した。
しかしそれが予想以上に手間取って、結局明るい時間には着けなくて。
慶次は、暗くなっても、同じ場所に待っててくれた。
まあ、会った瞬間頬にHitしてたけどな…。
でもまァ…理由が理由なだけに、怒る事なんか誰が出来る?
こんなにむくれてしまう位、待ち焦がれててくれたんだからな。
「…ホンット、Cuteだよな、慶次…」
「な…怒ってンだぞ俺は!!」
思わず口をついて出た言葉に、過敏に振り返る姿もまたCuteで。
思わずそのまま押し倒したら、また横っ面を引っ叩かれた。
それでも、思わずkissをする。
むくれていたくせに、思わず噴き出した慶次の耳元で、今度こそはと呟いて。
頷く慶次の首筋に、そのまま唇を寄せた。
次の作戦は、完璧にしねェとな。
【固い顔の弱点】
「なあ政宗、アレ」
「An?」
「猫だ、猫」
「ああ、どっかから迷い込んできたんだろう」
「可愛いねぇ…あ」
「今度はなんだ?」
「ねこが、ねころんだ」
「ブッ…!」
「ちょ…別にそういう意味で言ったんじゃないって!」
「いや、俺は別に笑ってねェぞ」
「え?」
「あれ、小十郎様お茶を持っていかれたんじゃ…」
「…ちょっと、想定外のことがあってな…煎れ直す」
「はァ、想定外」
「なー、小十郎さん、来るの遅くない?」
「全く、何やってんだアイツ…」
普段笑いから遠い方を笑わせるには、単純な程いい、というお話。