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【君が許へ】(※)

【物分りの良い男】

【行きも帰りも全力疾走】

【Natural drug】

【熱さに貼り付く肌も良し】

























































【君が許へ】



瞼を閉じるとまだ鮮明に映る姿
俺を見ると、真っ直ぐに、只管に走ってきてくれた
見せてくれるのは輝く笑顔
この腕に抱き締めてかみ締めた幸せ



なのに今はどうだ?



閉じた瞼はもう開く事もなく
俺の姿を見ても走る事はなく
笑顔なんて見せる事は、金輪際ありえない




家も民も棄てられるほどに愛している
だがそれを決して許しをしないのは、愛しい人
俺のことを、俺のことだけを考えてのその言動は嬉しくもあり
そして、哀しい

何故自分が今この立場にいるのか

何度問い質した事だろう
変わらない答えだと分かっているのに

大事で大事で仕方がない
お前以上に愛せる人間などもうありえない



慶次、慶次



頬から滴り落ちる涙を拭う事など
とうに諦めた




共に逝けないこの身をお前は

間違いなく笑って赦すのだろう

傍にいくから

必ず傍にいくから

愛しいその笑顔でまた



俺の許へと、かけてきてくれ





























































【物分りの良い男】



珍しく慶次が1人で目を覚ます。
布団の上、隣に視線をやると眼帯を外した一匹の竜と相棒である小猿が静かに眠っていた。
規則正しい寝息が二つ聞こえてくること、それが妙に慶次は嬉しく思えて思わず顔が綻んで。
腕を付き、静かに身体を起こす。

起こす事もないだろう。

寝崩れた着物を直し、音を立てることもなく布団から立ち上がり、襖を開いて部屋を出た。
足元は、月明かりで照らされる。



まだ夜も更けたばかり、見上げた空に星が煌いていた。



廊下へと腰を下ろし、眩く光る星に目が自然と細まって。
「いい月夜だねぇ…」
誰に聞かれるでもなく呟いた言葉は、夜の闇へと静かに消えていく。昼にはない静けさが、心地良い。
そしてまた一言、呟く。


「いつまで」


いつまで、こうしていられるのだろうと、慶次は思う。
夜は不思議と思考が巡るもの。
政宗は殿様で、自分は1人の風来坊。
その独眼に映るのは、国の民と我が部下達で、決して自分ひとりではないことを知っている。
それは仕方のないこと。
分かっているのだ、それくらい。
それでも無性に、時々無性に。



「俺だけ見てほしいなんて」



「「言えるわけがない」」



「?」

「何1人で、sentimentalに浸ってるんだよ」

ふと振り返る先に、眠っていたはずの政宗が立っていて、慶次の頭を無遠慮にかき混ぜた。
そして隣に、腰を下ろす。
「俺はいつも、アンタだけを見てるつもりだぜ?」
唐突に開かれた口から聞かれたのは、予想通りのその台詞。零れるのは、溜め息一つ。
「良いんだよ、無理だって分かってるんだから…そんな慰め」
もう、作り慣れた笑顔を無意識に浮かべる。
「アンタは、奥州筆頭なんだから」


目を閉じて、慶次は政宗の肩へと頭を寄せた。


皆を、守らないといけないんだから、その視線を独り占め出来る事は、今後一切ないってことは、知ってるよ。
呟く声が小さく消える。
何も言わずに政宗は強く肩を抱き寄せる。

だからせめて隣にいる夜だけは。

この今だけは。




「俺のことだけ、見て?」




抱き締める腕の力をただ只管に強くして、政宗は、慶次のくちびるを、塞いだ。

目と目は共に、開かれたまま。






























































【行きも帰りも全力疾走】



今言わなきゃダメだと思った。
だから、走ったんだ。

走って、走って。



アンタのもとへ、走ってきた。



城に着いたとき、小十郎さんに驚かれた。
友達になったアンタの家臣にも、驚かれた。
軽く手を振って、それでも、走って。

走って走って。



アンタのもとへ、やってきたんだ。



なのに。





「何で今日に限って寝ちゃってんだよ!!」




膨らませた頬は、これ以上ないくらいにパンパンに張って。
大きな声を出したにも拘らず、お目当ての人である政宗は、心地よさそうに寝息を立てて昼寝をしていた。
小さな机に突っ伏して眼帯を外し、寝る気しか見えない無防備な姿で眠っている。
「小十郎さんに告げ口するぞ…」
不穏な事を呟きながらも、慶次は静かに部屋の中へと足を踏み入れた。
真横に立ってみても、全く起きる気配はなく、ブツブツ文句を言ってみる。
それでも、結局政宗は起きる事がなかった。
あまりに心地よさそうなので、起こす事も憚られる。

「仕方ないなー…政宗のバカ…」

小さな溜め息を一つ。
政宗の隣に屈み込んで、顔をそっと覗き込み頬へとその顔を寄せて。





「……好きだ……って、今度は起きてるときに言う」





囁く様に告げながら、そばにある頬へと口付けを落とし、慶次はすぐに立ち上がった。
今日は、家を黙って飛び出した所為で長居するとまつに怒られるから。
後ろ髪を引かれながらも、慶次はその場を駆け出していく。
その出て行く速さに、またも家臣の皆に驚かれながら。







そんな後姿をこっそり眺める独眼竜が1人。







「相変わらず、cuteだぜ…慶次」

「起きてらしたんでしょう?寝たフリとは人が悪い」

「笑顔もいいけどな…むくれた顔も、名残惜しそうな顔も、たまには見てみたいだろ?」

「やれやれ…可哀想に…」





同じように後姿を眺めつつ、小さな同情の溜め息を漏らす竜の右目。
次に来た時には、団子の一つでも出してやろうと心に決めたのは、可哀想なほどに急いで駆けていく後姿を見れば、至極当然だったのかもしれない。























































【Natural drug】



今日はやけに小十郎が仕事を持ってやってきた。
終わらせても終わらせても、また次が。
暫くは隣で大人しく座っていた慶次なのだが、その我慢もそうもつものではないらしく。


「縁側で、待ってる」


口を尖らせて、1人外へと歩いていった。
開け放たれた障子から、慶次の背中が見える。
つれない態度に苦笑するも、後の時間の為にと、再び手を動かした。
時折聞こえる、小さな猿の声。
部屋の中を、風が、通る。





続けて、鼻を擽る様な、甘い香り。





視線を上げれば、ふんわりと柔らかく慶次の髪が揺れていた。

「Hey,慶次…何か髪に香でも付けたか?」

「んー?そんなもん俺が付けると思うかい?」

こちらを見ないままではあるが、言われてみれば、その通り。
それでも。
「…So sweet…」
髪が揺れる度に、甘くて胸をジリリと焦がすような。
そして、それがその揺れる髪の光景を見て尚更に強くなるような。

これはもう。




「仕事にならねェ」




いてもたってもいられないから。
後ろから身体抱き締めて、髪へと顔を埋めれば、目も眩む様な感覚が胸倉を鷲掴む。
くすぐったそうに笑う慶次の声を聞きながら、もう二度三度、その香りに酔い痴れる。
分かって風上に行ったのかと問えば、さあね、と笑う声がする。
結局そのまま、着物の隙間へと指を通した。

香りに導かれるように。

これではまるで。






「drug addict」
























































【熱さに貼り付く肌も良し】



「今日は暑いな」

「ああ、そうだねェ」

「うだるような暑さって、こういうことだよな」

「勝手に汗が出てくるし?」

「こう…やる気の全てを奪うっていうのか?何にもしたくなくなるよな」

「えーっと…のーこめんと、だっけ?何も言わねェ」

「…へェ?少しは覚えてきたな…。ま、確かにそんな奴が俺の上に乗っかってるわけねェか」

「暑さも忘れるくらい、ヨくは出来る気がするけど?」

「誰も頼んでねェよ!」

「ま、そういうな…大人しくしろって!偶には俺からもよくない?」

「そりゃま確かに…って、このクソ暑いのにくっ付いてるなんて無理だ!stop,慶次!服ン中手ェ入れんなーーーッ!!!」








空しく声は響いていく。

足掻いても足掻いてもその後は、慶次の頬を擽る長い髪に沸き立って。

甘い睦言が秘めやかに囁かれ。

乱れる姿に目は細まり、更に己が昂ぶった。

そして散々絡まった情の後。

乗せられた自分に深い溜め息を吐いても、隣で眠る幸せそうな顔に結局許してしまう政宗の寝姿が、そこにある。