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【紅濡花】

【歩幅】

【宵の記憶】

【特効薬】

【おやすみなさいは幸せの合図】













































【紅濡花】




「花の命は、短くて…ごめんな、駄目…だった……」




そう言って倒れていく身体を、伸ばした片腕で抱き止めた。
誰が、誰が死なせるものか。
自分で傷付けた身体だけれど。
そうしなければならないこの状況を、俺も、お前も、分かっていた。
だからこそ、刃を真剣に向け合ったのだ。

ああ必ず、必ず。




「死なせるわけがねェ…慶次…ッ!!」




腕に掛かる重み、そして、滴り落ちる紅の雫。
身体を抱え馬へと飛び乗って、駆け出していく。

小さな愛の囁きを添えて、僅かに冷えた頬へとくちびるを落とした。


動かない身体、少しだけ、笑った気がした。

























































【歩幅】



慶次の一歩は、政宗の一歩よりも大きい。
それが、政宗には気に入らない。
だから少しだけ、政宗は慶次の隣にいるときだけ、大きな歩幅で歩く。
何事も無かったかのような顔で、少しだけ大きな歩幅で歩く。


「政宗ってさー、足長いよね」


慶次は何も気づかない。
ニコニコと笑って、政宗を寄り添っていく。
身長差のある自分と同じ歩幅で歩くことに、何も疑問に思わない。
ただ、自分の隣を歩く人がいることが、嬉しいから。
だから、別に問題は無い。


「Ha!当たり前だ、奥州筆頭は足の長さもダテじゃねェ」


慶次が何も聞かないから、政宗も別に何も言わない。
二人揃って、笑顔で。
幸せだから、別に問題は無い。


そんな2人を見て、妙な微笑ましさに一人肩を揺らすのは、小十郎だという、お話。
































































【宵の記憶】




抱き締めた筈の身体が、するりと腕から抜けていく。
伸ばした手は掴めず、握るのは、空。



「アンタにするのを、最後の恋にするよ」



こちらを振り返って微笑む顔は綺麗で、たまらなくて。
なのに出そうとする声は、何故か喉で詰まった。
唇だけが、言葉を紡ごうとパクパクと動く。

「忘れないから、ずっと、ずっと」

一度閉じた目尻から滴り落ちる涙を拭おうと、指を伸ばしたけれどそれも届かず。
苛立ちに、大きく舌打ちをした。



「生まれ変わったら、今度は、アンタのそばに、もっと」



「大好き」





「大好きだよ」








「だけど」













「さよなら」












「けい…ッ!!!」


あ。


と、声が出た瞬間引き戻されるのは、現実。
汗で湿った寝間着が酷く不快で。
こめかみを流れ落ちていく雫を、掌で、拭った。

爪の後が付く程に握り締めていた掌を開けば、一枚の、花弁。



昼間出て行ったあれが、残して行ったものなのかは分からない。



だけどその一枚が愛おしく、ゆっくりと、ゆっくりと、くちびるを寄せる。





夢が現実になるのは、朝。

抱き締めていた温もりは消えても、その記憶は永遠に。

アンタが、俺も最後の恋だ。







昇る朝日、織田との一戦。





























































【特効薬】



顔が熱い。

閉じた瞼が熱い。

吐き出す息が熱い。

視界が揺れる。



これは、完璧に。





「Cold、だな」





「…何それ…」

「風邪ってことだ」

「へー…」

額に乗る手拭いを交換しながら、政宗が教えてくれた。
残念ながら今は右から左へ抜けていくけども。

慶次が倒れたのは一刻ほど前。
普段よりも重い体に首を傾げながら政宗の部屋へ遊びに行ったその時。不意に視界が揺れて、体が、傾いた。
受け止めてもらえたお陰で頭を打ちはしなかったが、この状態になるまで放っておいたことを怒られた。
摘まれた頬が少し痛い。
それからすぐに着替えさせられて、布団に寝かされ、片倉に怒られて。
今に至る。


隣には、政宗がいる。


横になる慶次に背を向けて、書に目を通している。
時折額の手拭いを取り替えてくれる。
髪を梳く指先が、気持ちいい。
だけど。



「政宗ぇ…ここに居ていーのかー?」

「An…?何がだ」

「だってさー…」



伝染ったら、どーすんだ。
唇尖らせて呟いたら、振り向いた顔にそのまま口付けられた。


「恋人がsickなのに、放っておけるわけねェだろ」

「だけど」

「いいから」


そう言って微笑まれて、目の上を手で覆われて。
もう一度くちびるが降ってきた。

酷く感じる安心感。

もうそれ以上、何か言うのを慶次は止めた。
政宗も黙って、目の上の手を退かしてまた机へと向き直る。



偶に引く風邪も、悪くないと冗談混じりに言ってやれば、再び摘まれる頬がやっぱり痛かった。































































【おやすみなさいは幸せの合図】





眠い。
眠い。


今もの凄く眠いのに。


「なんでアンタ俺の上にいんのさ」


「俺は眠くねェからな」


そんなの知ったこっちゃない。
大体昨日もその前も、アンタに好き放題にされたのに。
今日くらい大人しく。


「眠りたいんだけど」


「〜♪」


なぜか上機嫌で寝間着の紐を解かれている。
ああもうホントにこの人は。



「寝るッ!」



「おわッ!!」



はだけた胸そのままで、政宗の身体を抱き締めた。
体格の差を利用して動けないうに、ぎゅーっと。
最初は抵抗しようとしてたけど、暫くしたら諦めたのか、身体に回る腕の感触が心地良い。
深い息を吐き出した。
それが酷くくすぐったくて思わず笑っちまったけど、でも、政宗も笑ってんのが分かったし。
抱き締める政宗の髪に口付けて。



「…おやすみ、政宗」


「Good night,慶次」



結局二人で寝息を立てた。
感じる体温。
伝わる鼓動。
今俺は、凄く、幸せ。