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【君がいれば殊更に】

【何故そうなるのかの理由】

【分からないから】

【しとしとと降る日には】

【不思議ではあるのだが】














































【君がいれば殊更に】


綺麗に晴れた空の下、ゴロンと竜の頭の上へと仰向けになる。

目を閉じたところで、入り込んでくる強い日の光は政宗が眠ることを一向に許さない。
赤い色が、閉じた片目の瞼の上へと焼き付いて離れなくなる。
仕方なく、ただ目を閉じるだけ。

それでも、優しく吹き込む風で、揺れる髪が頬を擽ることが心地よい。

「So good…」

そんな小さな呟きは、風の中へと消えていく。

極めてゆっくりと流れていく時間。
ここ最近の激務に疲れた身体を癒すには、最高の時間だった。
きっと城では政宗の処理した政の書類が小十郎へと流れ、今頃大事になっているだろう。
それでも黙々と、ただひたすらに職務を全うする姿は容易に想像でき、クスリと、笑みが零れた。

「美味い酒でも、持って帰るか」

そう言って黙ると、自分の音を消す。
すると、鳥の囀りが聞こえる。
風が揺らす草木の擦れる音がする。


誰かの足音が、する。


「What…?」

「よ」

「……」

「あれ、どうした?俺の顔、忘れちまった?」

「No…慶次」



見知ったその顔に、政宗の独眼が見開かれる。
身体を起こして見るその服の色と日の光の目映さに、一瞬目が眩んだ。
そして、同じくらい目映い笑顔を見せながらこちらへと歩いてくるのは、愛しい恋人。


「ど」


「どうしてここにって?」


「That's light」


「城に行ったら、書類に埋もれそうだった小十郎さんが、な?」


「Ah…」


やはり想像していた通りだったらしい。
帰りがけの酒を確実にしたとき、慶次が竜の頭を上りきり、政宗の後ろへと胡座をかいて腰を下ろす。
高く結われた長い髪が風になびき、サラサラと、小さく音を立てた。

「で、今日はどうした?」

「んー?ちょっとしようと思ったことがあって」

「しようと…?何を……ッ!?」





振り返る先、慶次ではなく不意に、雲一つ無い空が、見えた。





「膝枕」

楽しげに笑みを浮かべる慶次の顔が、後ろから覗き込んできた。
次いで、唇には柔らかな感触。
もう少し堪能しようとするより先に顔が離れ、政宗は軽く舌打ちをする。

「まつねえちゃんが利にしてんの見てさ、何となく。で、城に行ったら政宗暫く忙しくしてたから休憩に出たってきいて、これはもう!って、居ても立っても」

いられなくなった、と。
間近で言われてしまっては、もう何も言うことは出来ない。
ああ、なんと愛しいのだろう。
ただこれは膝枕というよりも。

「胡座枕、か?」

「細かいことは気にすんなって」

そう言って、慶次は政宗の顔に陰を作る。
視界は暗くなるけれども、決して不快なものではなく。
ゆっくりと髪を撫でる手が妙に心地よく、先程まで全く寄り付かなかった睡魔が寄り添ってくる。
自然と、瞼は落ちてきた。

「お疲れ様、政宗」

そう耳に入ってくる声音さえも、眠りへと誘って。
1人の時に感じた心地よさなど、比べものにならない優しい感覚。
先程から吹いていた風は、慶次がくることを告げるものだったのか。
そんなことを考えるほど、今吹く風は穏やかさを増し。
頬に触れた慶次の片手を握り締め、政宗は意識をそっと手放した。



強すぎる赤は、もう、ない。



閉じた瞼に映るのは、優しく微笑む、恋人の顔。




























































【何故そうなるのかの理由】



「なあ、政宗って思い出し笑い多くない?」

「そうか?そんなつもりはねェが…」

「多い!さっきもしてたぞ。思い出し笑いは、スケベな証拠らしいのに」

「…You can't help it…慶次のことを考えてるからな」

「はぁ?なんで俺のことで思い出し笑いなんだよ」

「思い出し笑いは、Hなこと…スケベなこと考えたらしちまうんだと」

「だから、スケベな事考えたらでなんで俺のこ…と……って…」

「…Do you understand?昨日もcuteだったぜ、慶次」

「わ…笑わなくていいっ!政宗の、ド破廉恥ッ!!!」

そう言いながら、政宗の顔に殴り掛かろうとした慶次の腕を掴み、頬へ口付けを一つ落とした政宗の顔は、やっぱり笑っていた。





























































【分からないから】


どうやったら伝えられるだろう。
君に伝えられるだろう。

気持ちが大き過ぎる所為なのか。
伝え方が分からない。

後ろ姿を見詰めながら。



「好きだよ」



なんて。
小さく一言告げてみても。
足りないんだ。



足りないんだ、政宗。



こんな言葉だけじゃ、まだ。

抱き締めても、口付けをしても、まだ。

前の俺なら、もっともっとの押しの一手で。
あれやこれややってたのかも。
空いていた恋の時間の所為なのかな。





「好きだよ、政宗」





「Me too、慶次」





俺一人じゃ上手く出来ないから。
一緒に足りないこの言葉の隙間、埋めてくれる?






















































【しとしとと降る日には】



雨の日はあまり好きじゃない。
落ちていく滴に合わせて、今はないはずの右目が疼く。


ずきん ずきん


理由は分からないけれど、何故か。
部屋に1人、書類に目を通すことが酷く億劫になる。
既に消え失せたやる気。
南蛮から取り寄せたソファーの上へ、身体を投げ出す。


こんな日は、妙に逢いたくなる。


ただただ、逢いたくなる。





「慶次」





弾むような声が聞きたい。
揺れる長い髪に触れたい。
体温の高い身体を抱き締めたい。





「I want to see……慶次」





呟いた部屋の中。
やっぱり俺は1人だった。





















































【不思議ではあるのだが】



自分よりも小さな身体だと言うことは見て取れるのだ。
見下ろせる位置にある顔、少し細い肩。
それでも何故か、勝てる気がしない(付け足しておくが、決して武器を使った勝負ではない)

不思議なものだ。

何故か今、自分の上にいることも。
首へと腕を回して口付けを甘んじて受けていることも。
不思議なものだ。



「…An?どうした、惚けた顔をして」

「ん…いや、なんで俺今下になってんのかなって」

「Ha!何を今更…、…慶次は何か?俺に跨りてェのか?」

「…なーんか、政宗が言うと意味が違う気がする…」



口元を歪め楽しげに笑う目の前の男の身体を跳ね退けないのは、そこに愛があるからか。
なんて考えて、考えて、思わず笑った。

これは、愛なんて言葉一つで語れるような気持ちでは、ないのだ。